審神者日誌

4年目からの審神者日誌。相模国 初期刀:蜂須賀

2022年8月_審神者兼マスターが『THE HEROS展』を楽しんだ記録(静岡美術館)

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
2022年8月の出来事の日記です。
1年近くが空いてしまいましたが、当時の熱量ある下書きが残っていたので
せっかくなので公開できる形にしました。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 

ここでいう審神者とは、ゲーム「刀剣乱舞」のプレイヤーの名称として使っている。
マスターとは、一般的な意味ではなく
スマホゲーム「Fate/Grand Order」のユーザーのことである。

どちらも歴史上の人物、出来事、刀剣を題材としたゲームであるが
私は歴史に興味をもって始めたわけではない。

むしろ歴史の人物に関してはメジャーな人物の名前ぐらいしか知らないし、刀剣に至っては
名前すらも知らないものばかりだった。

 

そんな私が、特に刀剣の展示に行くようになって5年ぐらいになる。
ゲームを始めた当初に比べて、そこまで知識が増えたわけではない。
そこまで頻繁に行くわけでもない。理想は3か月に1回、都合がつかなかったり
時世の影響もあり、年2回行ければいいほうだと思う。

この展示に行くことに決めたきっかけは
「蜂須賀家伝来の正恒という刀が展示されてるじゃないか…!」だった。
私の刀剣乱舞の「推し」の一振りに『蜂須賀虎徹』という刀がいる。
江戸時代に活躍した刀工、長曽祢虎徹長曽禰興里)に打たれた「虎徹」の刀だ。

 

蜂須賀虎徹のゲーム内の説明(セリフ)にこんなものがある
「蜂須賀虎徹だ。蜂須賀家に伝来したことからこう呼ばれているんだ。」

そう、きっかけは推しと同じ家に伝来した(要するに一緒に住んでた可能性が高い)
刀が展示されているから。

そもそも蜂須賀虎徹は、刀が主力武器だった時代の刀ではないことに加え、
現在は本刃(ほんにん)が行方不明らしく、彼自身を見に行くことや、
彼に関係する刀、歴史人物の展示すらも極端に少ない刀だ。

蜂須賀家に伝来したという正恒を見に行くことは、
歴史に明るくなく、ゲームのキャラクターに興味の重点がある私が、
『THE HEROES展』に足を運ぶのに十分な理由だった。

 

この展示は刀剣乱舞に登場している刀が多めの展示というわけではなかったが、
刀剣×浮世絵という展示テーマなのも足を運ぶ理由になった。
浮世絵ならば、絵師や歴史に背景に詳しくなくとも、現代のポスターやグラフィックを見る感覚でビジュアルのみでも楽しめると思ったからだ。

美術館の展示というと、どうしても歴史的知識がないと楽しめない、
ないよりはあったほうがいい、という先入観が拭えないが、
『THE HEROES展』はそんな歴史の知識に引け目を感じなくていい、
そういう展示だったように思う。

 

『THE HEROES展』に再入場含め、合計3時間以上滞在したと思うのだが、
時間によって写真OKになるということもあり、それでも時間が足りなかった。

ここまで楽しんだ一因として
”展示の登場人物が「刀剣乱舞」、「Fate/Grand Order」で触れた歴史人物だらけ”
だったからだと思う。

 

浮世絵に描かれている人物が知ってる人だらけ

展示を見始めてまず目に留まった有名人物は
浮世絵に描かれた「源頼光」(みなもとのよりみつ)だった。
FGOユーザーにはお馴染み、頼光(らいこう)ママである。
そして頼光さんが出てきたということは当然頼光四天王もいる。
坂田金時渡辺綱酒呑童子、髭切………あげればキリがない。登場人物どころかその刀剣まで知ってる人しかいない!状態。もはや「いつもお世話になってます」

時代に沿って展示されているので、源頼光に続いて出てくる著名な歴史的英雄といえば……弁慶と義経。そもそもの知名度だけでも高すぎるのに、刀剣乱舞でもFGOでもなじみ深すぎる。
音声ガイドでは弁慶と義経の「バトル」なんて言われている。軽い。
自分のようなゲームきっかけで美術館に来てる人に寄り添いすぎている。

そんな言葉選びから、この企画展の”美術品をライトに楽しんで欲しい”という方針を感じた。

また、浮世絵の構図がデザイン的に良すぎて、それだけでも十分に楽しめた。
浮世絵の構図は現代の平面デザインに通じる部分が多すぎるのではないだろうか。


浮世絵の構図や色が良すぎる

 歌川国貞
「茨鬼 戻橋綱逢変化」

(黒が多く反射が強いのでサムネイル程度に参考写真)

これは図録の表紙にもなっている浮世絵で
刀剣乱舞FGOでお馴染み髭切、渡辺綱茨木童子の一条戻り橋の場面が描かれている絵なのだが、
その題材を知らなくてもこの大胆な構図に惹きつけられてしまう絵だと感じた。
こんなに黒ベタの面積が多いのにその黒の面に細い線がいくつも入っていて
画面が重くなりすぎず、このシーンの勢いと迫力をとにかく感じる。

そしてこの黒、オレンジ、緑の配色、この配色をどこかで目にしたような気がする…
そう、歌舞伎の幕だ。
この浮世絵はそれを意識して描かれたわけではないと思うが、歌舞伎も浮世絵と同じく江戸時代の文化なので、歌舞伎の歴史的配色の理由を抜きにしても、当時のメジャーな配色なのかもしれない。単に黒、オレンジ、緑を選ぶとしても少し色相がずれるとここまでまとまりを感じる絵にはならないと思うので、当時の配色センスの良さに感服した。

 

歌川国芳
「武勇見立十二支 丑 鬼童丸」

今回の一番のお気に入り。
まず鮮やかな一面の中縹色に惹かれる。
グラデーションがかかった月、主役の人物とその間に絶妙なバランスで描かれてる
ススキのバランスも素晴らしい。人物は黄色の着物を着ていて、
青の補色関係にある黄色を使うことで主役に視線誘導するという、デザイン理論も取り入れられている。
当時、そのような色や構図の知識がどれだけあったのかわからないが、
現代の知識で見ても見事な手法が取り入れられていて、刺激を受けるばかりだった。

 

歌川国芳
「程義経恋源一代鏡 三略伝」大物浦

舟にいるのは義経主従。海にいっぱいいる青白い顔が平家の亡霊らしい。
という題材が分かっていなくても、
「江戸時代から幽霊は青白く描かれるものなんだなぁ」と感動していた。
そして結構コミカルな顔をしているように見える。カニに怨霊の顔がついている。
とても可愛らしい。

 

このように私が歴史的題材というよりはむしろその構図や色などの表現方法に
注目して楽しんでいたのが伝わると思う。

今回沢山の浮世絵を見て感じたこととしては、
私がゲームを通じて、現代のイラストと解釈で創られた歴史人物と同名のキャラクターを好きになったように、
当時も歴史人物そのものというより、浮世絵の解釈で描かれた人物像が好きだ、という人が少なからずいたのではないかということ。
つまり、『「浮世絵」って現代の「ファンアート」と同じでは?』
それは勿論、普遍的な人気の歴史的題材があってこそ成り立つものだ。

歴史の中で絶えず何度も解釈し続けられ、
現代までその人気が続く「THE HEROS」の展示なのかと腑に落ちた瞬間だった。

 

刀剣展示はデザート

国宝 太刀 銘 正恒

静岡美術館さんのブログに綺麗な写真や説明があるので割愛。
あれだけの浮世絵を堪能しながら国宝の太刀にも会えてしまう。満足度が高すぎる。


刀剣博物館所蔵の正恒の資料が手元にあったので姿を比べて見たら
結構反りに違いがあって、並べたらわかるかも、という印象。
かなり特徴的な刃文がある刀は何度か見て記憶に残っているが、
複雑な刃文の違いや地鉄に至っては毎日見ないと見分けられる気がしない。
けれどこの正恒は、銘と切込痕で
「蜂須賀家伝来の正恒」とこれから見分けられるようになりたい。

そもそも人間の顔だって一度会っただけではあやふやになるものだ。
根気よく展示に通うことで少しでも記憶に残る一振りを増やしたい。

そう思う蜂須賀家伝来の正恒とのファーストコンタクトだった。

 

太刀 銘 備州長船兼光 延文三年二月日

とにかく印象が強かった一振り。このやりすぎぐらいな切先。
私が好きな刀剣の形をしていた。
正恒とおなじく、ふくやま美術館所蔵の刀だったのでおそらく初邂逅。
また一つ素敵な出会いをしてしまった。

始めてリアルで見たいと思った刀剣が南北朝時代の刀剣だったため、
その時代の刀剣が一番好みの姿をしていることが多く、
この一振りも例にもれず南北朝時代

shizubi.jp

 

 

HEROS展で見れる浮世絵に描かれているのは、現実の出来事というより
「推しのかっこいい姿」。

冒頭でも書いたように、今まで歴史的価値がある美術というのは
「歴史的知識を持って楽しむもの。知識が少なくともあったほうがいい」
という先入観があったが、
この展示はそんな考えを改めさせてくれるきっかけになった。
今も昔も推しの「かっこいい」こそ最高の熱量で、そこに年月が重なると美術品になる。
美術品の楽しみ方はきっと、そんな感じで良い。